顧客からの指示で、橋本さんチーム以外は待機となった。
自分はこれまでの会計チームの進捗レポートとマニュアルを作成し、斎藤さんらに渡した。実質の引き継ぎになる可能性が高い。
Pはコンサル内会議で、契約どおりに進捗していると言っていた。
「強くなることは鈍くなること」
— 野島 伸司
” Becoming strong means becoming numb.”
— Shinji Nojima
▶ 聖者の行進
オフィスでまた川上さんに会った。ランチに誘ってもらったが、川上さんはあまり食べなかった。なんでも、昨夜、仕事終わりにDにご飯に誘われ、23時過ぎに寿司屋に行ったらしい。
令和の今でも、業界の働き方はそう変わっていない。何十年もこの働き方を続けているDやPにはこれが普通であり、善意なのだ。
川上さんは3つくらいしか変わらないが、自分に「若いんだからちゃんと食べなさい」と言う。川上さんの生きることを面白がっている感じが好きだ。
「どんな洗練された大人の中にも、外に出たくてしょうがない小さな子供がいる」
— ウォルト・ディズニー
” Inside every sophisticated grownup adult is a little kid just dying to get out.”
— Walt Disney
ディレクターは会議に来ないらしい。
コンサル業界のパートナーやディレクターは、事業会社でいう営業だ。たいてい複数案件を掛け持ちしている。優先順位は売上%で付けられ、炎上しているかどうかはあまり気にされない。現場に滅多に来ない彼等にあるのは、予算配分権限=アサイン権限と契約期間に関する権限だけだ。
結果として、PJ内容についての責任の所在は、曖昧になる。
「あなたの顧客の中で一番不満をもっている客こそ、あなたにとって一番の学習源なのだ」
— ビル・ゲイツ
“Your most unhappy customers are your greatest source of learning.”
— Bill Gates
ステコミは前回と同じく、コンサル側が顧客側に詰められる形で終わった。
顧客側のPMである経営企画部 田嶋さんは、会議室に入ってきたときからイラだちを隠していなかった。
各チームが作成し、PMOがまとめた進捗資料を投影する。報告は2チーム目で遮断され、その後は持ち時間いっぱい顧客側からの不満にパートナーが回答するという地獄のような時間だった。
「大きな夢を描く競争をしましょう。それなら私も何とかあなたのお手伝いができるかもしれません」
— 手塚治虫
“Let’s compete to dream big. If it’s that kind of contest, then maybe I can be of some help to you.”
— Osamu Tezuka
橋本さんと別れて経理部に置いてもらっている自分のデスクに行くと、経理部員の斎藤さんが来週のステコミの資料について打合せしたいと言ってきた。
日曜日に準備していた内容なので、いつでも打合せできる。
応じると、斎藤さんが会議室を取って連絡をくれると言う。
「好かれなくても良いから、信頼はされなければならない」
— 野村克也
“You don’t have to be liked, but you must be trusted.”
— Katsuya Nomura
BIG4はそれぞれブランディングカラーが分かれており、outputを見ればどこが作成したのかわかる。ハリーポッターの寮みたいだ。
更に細かく、使うフォントの種類や大きさまで指定されている。
使える色やフォントまで決まっていると聞いた時は覚えられるか不安だったが、社内で準備されている書式を使えば問題ない。
「自分自身の目で見、自分自身の心で感じる人は、とても少ない」
— アインシュタイン
“Few people are capable of seeing with their own eyes and feeling with their own hearts.”
— Albert Einstein (translated by the author)
今のPJに入ってから、もうすぐ3年経つ。
日系製造業の基幹システム入れ替えPJで、自分は会計面を担当している。
全部で50名以上のコンサルタントが投入されているが、毎日やり取りが発生するのはPMOメンバーとPJS(PJ秘書)くらいだ。
今日もPJSの杉さんが、朝から新規メンバーの手続きやパートナーのスケジュール調整で忙しくしている。
「特別なことをするために、普段通りの当たり前のことをする」
— イチロー
“To achieve something extraordinary, you do the ordinary things as usual.”
— Ichiro Suzuki (translated by the author)